COLUMN コラム
製造物責任(その1)-製造物の欠陥の概念
1. 欠陥のある製造物に起因して損害を被った場合の法律構成
我々が生活する中には、様々な製品(以下「製品」又は「製造物」といいます。)が流通し、個人・法人を問わず使用されています。製品を使用する者は、製品の安全性に対して信頼して使用をしているところ、製品の欠陥がある場合には、これにより生命・身体・財産への甚大な被害を被る可能性が高くなります。そのため、欠陥のある製品に起因して損害を被った被害者の保護を図り、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展を企図して、製造物責任法が制定されています。もっとも、欠陥のある製品に起因して損害を被った被害者は、製造物責任以外にも、いくつかの法律構成により製造業者に責任を問いうる余地があります。典型的には、①契約の内容に従っていないことを理由とする債務不履行責任(民法415条、同564条、期間制限につき、民法566条、商法526条)、③不法行為の特則である製造物責任法に基づく製造物責任(製造物責任法3条)、③契約を必須とすることなく一般の違法行為に基づき損害を被ったことを理由とする不法行為責任(民法709条)などの法律構成があります。
①は製造業者と被害者の間に何等かの契約関係がある場合、②③は製造業者と被害者の契約関係の有無に関わらず、被害者から製造業者への主張の余地がある構成です。これらは内容において類似しているものの内容と適用場面が微妙に異なっています。以下では、請求原因や抗弁たる要件事実に、故意過失や帰責事由という主観的な要件が含まれておらず、被害者側の主張立証責任が緩和されている製造物責任の要件に含まれている「欠陥」に絞って要件の内容及び関連する典型的裁判例を取り上げます。
2. 製造物責任の要件と欠陥の判断要素
製造物責任は、以下のような要件で成立するとされます(製造物責任法3条)。
ア 被告(加害者とされる者)が当該「製造物」の「製造業者等」であること
イ 被告(加害者とされる者)が当該製造物を「引き渡した」こと
ウ イのとき当該製造物に「欠陥」があったこと
エ ウの欠陥により原告(被害者とされる者)の生命、身体又は財産(当該製造物を除く)が侵害されたこと
オ ウについての損害の発生とその金額(評価)
ウの要件の中の「欠陥」という概念は、製造物責任法2条2項で定義され「この法律において『欠陥』とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。」と規定されています。
すなわち、製造物が通常有すべき安全性を欠いている点において、「特性」、「通常予見される使用態様」、「引き渡した時期」、「その他の当該製造物にかかる事情」などが判断要素となることが例示されています。
これらは「欠陥」という評価概念(規範的要件といわれます。)を認定するための判断要素の例であり、これらをふくめ以下の各ア~エのような判断要素があるものとして分類されています(「逐条解説 製造物責任法」平成30年9月版 消費者庁の解説からの抜粋をまとめ)。
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特性 |
ア 表示 |
事故につながり得る誤使用を避けるための使用上の指示・警告が求められる製造物かどうか、又はある製造物にとって指示、警告の有無や適切・不適切により欠陥の有無が判断され得るかどうかという事情 |
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イ 効用・有用性 |
当該製品の効用・有用性の内容及び程度 |
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ウ 価格対効果 |
ある製品に具備されている安全性は、当該製品の価格との関係で一定の幅があり、同じ価格帯に属する同種製品には、少なくとも当該価格帯における平均的な安全性が求められるという事情 |
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エ 被害発生の蓋然性とその程度 |
ある製品につき、一定の内容の製品事故が生じ得る一般的な蓋然性及び発生する被害の重大性。例えば、被害の発生が個人の体質等に左右されるよう な場合における、特異な体質の一個人にのみ軽微な被害が生じているのではないかといった事情 |
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オ 通常使用期間・耐用期間等 |
通常想定される使用期間や耐用期間をはるかに超えて使用されたことにより製品の経年劣化による事故が生じ得るが、このような場合には、引渡しの時点では欠陥はなかったと判断することが妥当なこともあることに鑑み、当該製品の通常の使用期間や耐用期間はどの程度かという事情 |
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通常予見される使用形態 |
ア 製造物の使用者により合理的に予見される使用 |
当該製品の本来の使用形態及びその特性に応じて合理的に予見可能な範囲の誤使用は、製造物の設計・製造の際に考慮して対応すべきと考えられることに鑑み、その範囲 |
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イ 製造物の使用者による損害発生防止の可能性 |
当該製造物に想定される使用者の資格・技能等に鑑みて、使用者が事故を回避することが合理的に期待できるかどうかという事情 |
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引き渡した時期 |
ア 製造物が引き渡された時期 |
当該製品が製造業者によって引き渡された時点での社会通念に基づいて要請される安全性の程度等の事情 |
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イ 技術的実現可能性 |
製品が引き渡された時点での技術水準を踏まえ合理的なコストアップの範囲内で安全性を高める代替設計、代替構造等が実現できるかという事情 |
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その他の当該製造物にかかる事情 |
ア 危険の明白性さ |
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イ 製品のばらつきの状況 |
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ウ 天災等の不可抗力の存否 |
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単に製品の不具合があったとしても、直ちに製造物責任法にいう「欠陥」に該当するものではなく、様々な具体的事実を考慮に入れた上で総合的に「欠陥」となるかが判断されることなり、この点留意が必要となります。
これらの判断要素は上記の説明においても、なあ抽象的であり、より具体的なイメージをもつために以下で裁判例を列記しておきます(出典は上述と同じ)。欠陥の有無、欠陥の判断要素の有無の判断にあたって参考となります。
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特性 |
ア 表示 |
奈良地判平成15年10月8日(給食食器片視力低下事件) 商品カタログや取扱説明書等において、本件食器が陶磁器等よりも「丈夫で割れにくい」といった点を特長として、強調して記載するのであれば、併せて、それと表裏一体をなす、割れた場合の具体的態様や危険性の大きさをも記載するなどして、消費者に対し、商品購入の是非についての的確な選択をなしたり、また、本件食器の破損による危険を防止するために必要な情報を積極的に提供すべきである。 本件では、本件食器が破壊した場合の態様等について、取扱説明書等に十分な表示をしなかったことによりその表示において通常有すべき安全性を欠き、製造物責任法第3条にいう欠陥があるというべきである。 東京地判平成23年1月17日(洗浄剤硫化水素中毒事件) 製品に関する指示・警告等の情報をラべルや取扱説明書等に表示・記載するに当たっては、通常予見することができる範囲の誤使用や合理的に予見することができる範囲の誤使用によって生じる危険についてはこれを考慮することが必要であるものの、その程度の表示・記載がなされれば足りるし、製品の使用者層を前提として、通常の使用者にとって明白な危険性については、その警告等の表示・記載がなくても、上記「欠陥」が存すると認めることはできないというべきである。 本件では、主成分が塩化水素 20%と明示され、小便器に少量を流し込んで使用することが想定されている本件洗浄剤を、硫化水素中毒の発生の危険性が高い排水槽内において、硫化物が含まれていたと推認される汚れを落とすために、指示された量の約 70倍にも当たる量を一度に使用したという本件におけるXらの使用方法は、本件洗浄剤が想定する通常の使用方法からはかけ離れた、合理性を欠く誤使用であったというほかはない。また、本件洗浄剤に指示・警告がないからといって、同洗浄剤が想定する本来の使用や通常予見することができる誤使用により硫化水素中毒になる危険性が存するとまでは認められない。したがって、本件洗浄剤に指示・警告がなかったことが製造物責任法上の「欠陥」とはいえない。 大阪高判平成24年5月25日(こんにゃく入りゼリー1歳児死亡事件) 本件警告表示においては、子どもや高齢者がこれを食すると喉に詰まらせる危険性があることが、外袋表面のピクトグラフ等の記載や外袋裏側の警告文に明確に表示されており(これは赤枠で一見しても相当に目立つ警告文であることが分かる。)、しかも、通常のゼリー菓子ではなく、こんにゃく入りであることも、外袋の表にも裏にも記載され、特に、子どもや高齢者は食べないでくださいと明確に表示されていたもので、本件こんにゃくゼリーの食べ方についての留意事項については、警告文として特に不十分な点はない。本件事故当時は、一般消費者にとって、その食品特性を認識しにくい状態にあったともいえず、むしろ、その特性、更には事故情報についても少なくとも一定程度は既に認識されていた状況にあったといえる。幼児や高齢者への警告表示についても、国民生活センターからの意見、農水省からの要請等を踏まえて、従来のものを変更し、本件事故当時、本件警告表示をすることになったもので、本件こんにゃくゼリーは、通常有すべき安全性に欠けていたとまでいえない。 最三小判平成25年4月12日(肺がん治療薬死亡事件) 医薬品は、人体にとって本来異物であるという性質上、何らかの有害な副作用が生ずることを避け難い特性があるとされているところであり、副作用の存在をもって直ちに製造物として欠陥があるということはできない。むしろ、その通常想定される使用形態からすれば、引渡し時点で予見し得る副作用について、製造物としての使用のために必要な情報が適切に与えられることにより、通常有すべき安全性が確保される関係にあるのであるから、このような副作用に係る情報が適切に与えられていないことを一つの要素として、当該医薬品に欠陥があると解すべき場合が生ずる。 医療用医薬品については、上記副作用に係る情報は、「医療用医薬品添付文書の記載要領について」(平成9年4月25 日薬発第606 号厚生省薬務局長通知)等が定められ、添付文書に適切に記載されているべきものといえるところ、上記添付文書の記載が適切かどうかは、上記副作用の内容ないし程度(その発現頻度を含む。)、当該医療用医薬品の効能又は効果から通常想定される処方者ないし使用者の知識及び能力、当該添付文書における副作用に係る記載の形式ないし体裁等の諸般の事情を総合考慮して、上記予見し得る副作用の危険性が上記処方者等に十分明らかにされているといえるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である。 |
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イ 効用・有用性 |
東京高判平成23年11月15日(肺がん治療薬死亡事件) 特定の疾病又は症状に著効のある医薬品には副作用が生じるのが通例であるが、副作用の存在にもかかわらずその医薬品に有用性を認めるかどうかは、当該疾病又は症状の生命・身体に対する有害性の程度及びこれに対する医薬品の有効性の程度と副作用の内容及び程度の相関関係で決まる。非小細胞肺がんは、抗がん剤や放射線治療が効きにくく治療が特に困難であること、本件抗がん剤は、その中でも重篤度の高い手術不能又は再発非小細胞肺がんを適応とし、日本人の非小細胞肺がん患者に対する腫瘍縮小効果が高く、血液毒性、消化器毒性、脱毛等の副作用がほとんど見られないこと、間質性肺炎は、発症率にバラつきはあるが、従来の抗がん剤や抗リウマチ薬の投与でも発症する一般的な副作用であり、本件抗がん剤による間質性肺炎の発症については危険因子特定のための研究が進んでいることの諸事実を総合すると、本件抗がん剤の投与による間質性肺炎の発症頻度が日本人に高いという副作用の存在のゆえに、その有用性が否定されることはなく、したがって、その副作用の存在のゆえに本件抗がん剤に設計上の欠陥があるということはできない。 大阪高判平成24年5月25日(こんにゃく入りゼリー1歳児死亡事件) こんにゃくゼリーは、独特の食感をもち、こんにゃくが美容や健康に良いとの考え方とも相まって、顧客に好まれて人気商品になったもので、Yが平成3年に同様の商品を販売し始めてから、他社製品も含めて、おびただしい数の同様の商品が市場に流通し、その大多数は、窒息事故もなく、顧客に親しまれて好まれる商品になったといえる。この点等に照らせば、こんにゃくゼリーは、本件で認定された程度の頻度の窒息事故が発生したからといって、直ちにその物性自体や食品自体の安全性に問題があるものとまではいえない。 本件両親(Xら)は、その欠陥の有無を判断するには、製品として、危険効用基準の考え方によるべきであり、本件こんにゃくゼリーには、欠陥があるというべきである等主張している。しかし、本件こんにゃくゼリーについては、問題とすべき危険性はその食材等の身体に対する危険性ではなく、食べる対象者を含めた食べ方の問題であって、それについては、本件では、その設計上の観点からも、本件警告表示の観点からも、いずれも通常有すべき安全性を欠いているとは認められないものである。窒息事故自体は、食品の如何を問わずその可能性を完全に否定することはできないというべきであることからも、本件では、そもそも、Xら主張のような危険効用基準による考え方を詳論するまでもなく、本件こんにゃくゼリーは、製造物責任法上、通常有すべき安全性を欠いているとは認められないというべきである。 |
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ウ 価格対効果 |
東京地判平成23年2月9日(トイレブース開き戸型ドア親指切断事件) 本件ドアの構造によれば、ドアを開けた際に生じる隙間に手指を入れるとドアを閉じた際に隙間がなくなり手指を挟みけがをする指詰め事故発生の危険があるものの、同危険は隙間に手指を入れる場合に限られ、同用法は本来の用法でなく通常予見される使用形態でもないところ、本件トイレブースは、本来の用法に従って使用する限り指詰め事故発生の危険性はないから、通常有すべき安全性に欠けるとはいえず製造物責任法上の欠陥は認められない。Yにおいて、利用者がトイレブースのドアを本来の用法以外の用法で使用ができないようにするとか、本来の用法以外の用法で使用しても指詰め事故が発生しないような安全策を講ずべき必要はない。むしろ、製造・販売業者が上記レべルの安全策を講じなければならないとすると、これを必要としない他の多数の購入者に対してまで不要の構造や材質の製品を提供せざるを得なくなり、コストが高くなるなどの問題も生ずるのであって、妥当でない。 東京地裁 平成29年1月24日(丸のこ切断機指切断事件) 本件機械を使用して材料を切断する場合に、自動運転であれ手動操作であれ、少なくとも最後の端材を取り出す際には丸のこ刃付近に手を挿入して端材を取り出す工程が不可避的に存在するため、その使用形態に照らして、作業者が丸のこ刃に手を触れる危険性があるものである一方、そのオプション装置としての価格を合わせ考慮しても、本件機械の前面扉に安全防護装置を標準装備とすることに困難はないし、本件機械が製造された平成16年当時、機械による労働災害を防止するため、機械操作による労働災害の危険の大きさに鑑み、機械の危険源が運動しているときに人が身体を危険源に誤って触れることがないような装置を備えることが厚生労働省の「機械の包括的な安全基準に関する指針」などにおいて求められていたこと、そのころ、欧州においては、既に電磁ロック式インターロックを標準装備とすることが求められており、Yもこれに対応した本件機械を輸出していたこと、国内向けの本件機械に同様の安全防護装置を設けることは技術的に可能であること、また、他社の対応においても、平成16年当時、工作機械にインターロック等を標準装備するなどの対応を既に取っていた会社も存在することから、こうした安全防護装置を備えないことは、通常有すべき安全性を欠いていると評価し得るというべきである。 したがって、本件機械は、かかる安全防護装置を備えていないから、製造物責任法第3条にいう「欠陥」があったものということができる。 |
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エ 被害発生の蓋然性とその程度 |
東京地判平成12年5月22日(化粧品指示・警告上欠陥事件) 多数の消費者にアレルギー反応を引き起こすような化粧品は、化粧品として流通に置くことに問題があって通常有すべき安全性を欠いている疑いが強いと言わなければならないが、本件で認められる苦情件数からすれば、Xのように本件化粧品によってアレルギー反応を引き起こした消費者は本件化粧品の販売数に比してごく少数であると推認され、少なくとも多数の消費者に皮膚障害を発生させるような成分が本件化粧品に含まれているとは認められず、Xにアレルギー反応を引き起こしたとしても本件化粧品自体が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。 また、指示・警告上の欠陥に関して、本件では、本件化粧品に対してアレルギー反応を引き起こした消費者はごく少数であると考えられるので、まず、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある化粧品の指示・警告として、本件注意文言が十分なものであったかどうかが問題となるが、本件注意文言自体から通常読みとれる内容に加えて、その記載態様も斟酌すると、本件化粧品の外箱及び容器において、本件化粧品につき予想される危険の存在とその場合の対処方法について、消費者の目につきやすい態様で、端的な記載により注意喚起されていたと評価できる。そして、本件化粧品の成分のどれかに対して本件女性のようにアレルギー反応を引き起こす消費者がいたとしても、そのアレルギー反応の出現は、本件化粧品を使用して初めて判明することであるから、本件注意文言のように、本件化粧品が「肌に合わない」場合、すなわち、皮膚に何らかの障害を発生させる場合があり得ることを警告するとともに、その場合は、使用を中止するように指示することは、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある本件化粧品の指示・警告としては、適切なものであったというべきであり、結論として、指示・警告上の欠陥を認めることはできない。 大阪高裁 平成24年5月25日(こんにゃく入りゼリー1歳児死亡事件) こんにゃくゼリーを喉に詰まらせる窒息事故の発生については、平成7年7月から平成 20年7月までの13年間に死亡事故が22件、平成20年10月までの約14年間に死亡までには至らなかった事故が32件それぞれ報告されている。 しかし、こんにゃくゼリーの各特性による窒息事故の危険性は、その物性自体に例えば発ガン物質などの有害物質が含まれているというような食品自体の危険性ではなく、専ら、これを食べる対象者を含めた食べ方に起因して発生する危険性である。そして、Yが平成3年に同様の商品を販売し始めてから、他社製品も含めて、おびただしい数の同様の商品が市場に流通し、その大多数は、窒息事故もなく、顧客に親しまれて好まれる商品になったといえる。また、食品の窒息事故の報告例でみても、その発生件数は、我が国の食文化として古くから定着している餅による窒息事故の方が断然多いことも確かであり、さらに、食品安全委員会の評価書によっても、その一口による発生頻度も飴による窒息事故と同程度であるとされている。これらの諸点等に照らせば、こんにゃくゼリーは、それを食する際に、前記で認定した程度の頻度の窒息事故が発生したからといって、直ちにその物性自体や食品自体の安全性に問題があるものとまではいえない。 |
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オ 通常使用期間・耐用期間等 |
大阪地判平成14年9月24日(中古車出火焼損事件) Xらは、本件車両を、その合理的な使用期間内に通常の用法で使用していたにもかかわらず、Xらの身体、財産に危険を及ぼす異常が発生したことを主張・立証すれば、製造物責任法にいう「欠陥」の主張・立証としては十分であり、これを争うYにおいて、「欠陥」が製造上生じたものでないことを具体的に反証すべきであるなどと主張する。しかしながら、製造時から相当期間を経過した後中古車として本件車両を取得し、さらに約1年半後本件事故が発生したが、その間、Y以外の第三者による整備・点検が繰り返された事案においては、Xらの主張するように、製造段階における「欠陥」の存在 を前提として、「欠陥」の特定の程度を緩和し又は「欠陥」の存在を一応推定することはできないものと解するのが相当であり、Xらの製造物責任等に係る主張は理由がない。 京都地判平成18年11月30日(折りたたみ足場台脚部座屈傷害事件) Xは、本件足場台には、初期不整及び本件補強金具の不具合等の欠陥等があったと主張する。 そこでこの点につき検討すると、Xは、本件足場台の天板の上に立って作業を行っていたところ、これは、本件足場台の通常の使用方法であり、その際に突然、同足場台の脚が変形したのであるから、Xが本件足場台を使用していた時点で、同足場台に何らかの不具合があったと推認される。そして、①本件事故は、Xが本件足場台を購入してから約3年9か月後に発生しているが、同期間は、本件足場台が通常有する安全性が維持されてしかるべき合理的期間の範囲内であると考えられること、②本件足場台の形状からして、本件足場台の通常の用法以外の方法で使用されることがにわかに考え難いこと等からすると、Xが、同足場台を購入後、同足場台を通常の用法に従い使用していたと推認される一方で、Yが足場台販売会社に本件足場台を納入した当時から、本件足場台に本件変形の原因となる不具合があったと推認されることを総合すれば、本件足場台には、欠陥等があったと認められる。 |
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通常予見される使用形態 |
ア 製造物の使用者により合理的に予見される使用 |
東京高判平成14年10月31日(資源ゴミ分別機械上腕部切断事件) 通常予見される使用形態とは、製造物の予定された適正な用途、使用態様のみならず、その製造物であれば通常合理的に予期、予見される用途、使用態様も含まれるものであり、使用者の誤使用であっても、通常合理的に予期、予見される使用形態であれば、製造物の欠陥の有無の判断に当たっては適正使用とみられることになる。 本件では、本件一般廃棄物処理業者の注文によりYが組み立て、本件一般廃棄物処理業者の工場に設置したものであり、本件一般廃棄物処理業者は一般廃棄物処理業を始めたばかりであることからすると、Xの本件機械の使用方法は通常の使用形態を著しく逸脱したものとはいえないし、本件一般廃棄物処理業者は初めて一般廃棄物処理業に携わり、本件機械について専門的知識を有していなかったのであるから、Yは本件機械の仕様、性能、危険性について具体的、詳細に説明し、その危険性について警告をすべきである。Yがこれを怠ったため、Xは本件機械の仕様、性能、危険性について理解しないまま、本件機械が稼働中でも容易にスチール缶を取り出せると誤認して本件掃除ロに手を挿入したものであり、Xの誤使用ではあるが、なおYにとって通常予期、予見され得る使用形態というべきである。そして、スチール缶が選別機から漏れてアルミ選別機コンべア内に進入し、本件ローラーに付着しやすいということとあいまって、本件機械には製造物責任法に定める「欠陥」があったと認めることができる。 東京地判平成16年3月23日(ピアノ防虫防錆剤液状化事件) 本件錠剤は、水に極めて溶けやすく、吸湿性があるソルビットという索散安定補助剤の特性により、一般家庭でアップライトヒアノ内部に吊り下げて使用されている間に、空気中の湿気を吸い、溶けて液状化し、ヒアノの部品に付着するなどして故障の原因になる等のおそれが十分あったと認められる。にもかかわらず、本件錠剤の液状化を防止するための工夫等を施した形跡はうかがわれないから、本件錠剤は、設計上、ピアノ用防虫防錆剤が通常有すべき安全性を欠いた製品であったと認めるのが相当である。 この点、Yは、本件錠剤は、温度 30℃以上、湿度 80 パーセント以上で、水蒸気の供給が常にあるという、ピアノの通常予見される使用環境とはいい得ない環境下での使用によってのみ液状化するものであって、欠陥はないと主張する。しかしながら、本件錠剤の液状化が問題となった地域周辺では、夏季においては、温度25℃以上、湿度80パーセント以上という環境になることも珍しくなく、たとえそれがピアノにとって適切な環境とはいえなくても、一般家庭において常にそのような状態に保つのが困難であることは経験則上明らかである。 したがって、たとえそれが液状化するためにYの主張するような環境が必要であったとしても、上記のような本件地域周辺における使用環境が通常予見される本件錠剤の使用環境でないものとは認められない。 |
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イ 製造物の使用者による損害発生防止の可能性 |
東京高判平成14年10月31日(資源ゴミ分別機械上腕部切断事件) Xは、初めて一般廃棄物処理業に従事したもので、産業機械の仕様、性能、使用方法等について専門的知識はなく、本件機械の設置の際も、作業実習における試運転の際も、本件廃棄物再生処理用機械の製造・販売業者(Y)の従業員らから、本件機械の仕様、性能、特に本件ローラーは毎分3000 回転の速度で回転しており、その内部に強力な永久磁石が埋め込まれていて、本件ローラーに付着したスチール缶は容易に除去することができないという説明は全く受けておらず、説明書も交付されていなかったため、そのような認識をもっていなかった。本件機械の稼働中に本件掃除ロから手を入れてスチール缶を取り出すことは、本件機械の予定された使用形態ではないが、もともと、本件掃除ロは、本件コンべア内に缶やゴミが落下することが予想されていて、そのゴミや缶を手を入れて取り出すために設けられたものである。本件掃除ロ自体は狭く、中はうす暗くて、本件ローラーの一部は視認し得るものの、のぞいただけでは中の構造は正確に視認し得るものではなく、本件ローラーの表面出ロ側に缶が付着しているのを本件掃除ロから見ることができ、本件ローラーが高速度で回転していることは視認できても、その内部に強力な永久磁石が埋め込まれていることを知らなかったため、一見すると容易に手で缶を取れそうに見えたのであり、Xが本件掃除ロの中を見ただけでは本件ローラーが回転している本件掃除ロ内部の危険を想定することはできないものであった。 以上より、本件は、Xによる誤使用ではあるが、なおYにとって通常予期、予見され得る使用形態であることが認められ、また、本件機械の構造もあいまって、結論として本件機械には製造物責任法に定める「欠陥」があったと認めることができる。 京都地判平成19年2月13日(裁判所ウェブサイト、介護べッド胸腹部圧迫死亡事件) Xは、身体の柔軟性を失った高齢者及び重度の障害者で自らは自由に体位を変えられない者はギャッチべッドの利用に適さず、Yはそのことを説明する義務を負っていたと主張している。 しかし、我が国において、ギャッチべッドが自宅介護用として広く使用され、介護にあたる家族等の負担を軽減しているという現実を踏まえると、自分で自由に体位を変えることのできない者はギャッチべッドの使用に適切でないとまでいうことは相当でない。加えて、ギャッチべッドで背上げを行った際に利用者が胸部及び腹部に圧迫を受け、 また、背上げを行ったままの状態で長時間その姿勢を保った場合に利用者がその身体に負担を受けることは明白な事実であるから(介護者は自分で試してみることにより容易に理解することができる。)、介護者が、例えば、背上げを完了した後に利用者の座る姿勢、位置等を直したり、背上げをした状態で使用する時間を利用者の容体に応じて調整するなど、適宜工夫することにより、上記圧迫ないし負担を軽減することは可能である。 よって、その説明義務についても、前提を欠くから、Xの上記主張を採用することはできない。 |
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引き渡した時期 |
ア 製造物が引き渡された時期 |
東京高判平成13年4月12日(判時1773号45頁、食品容器裁断機リフト頭蓋底骨折死亡事件) 本件機械では、リフトが停止した時点で隙間から邪魔になるフードパックを取り除く等の方法が荷崩れ品の排除策として予定されていた。 しかし、このような予定された荷崩れ品の排除策は不適切なものであり、通常の操作担当者であれば、熟練するにつれて、作業効率を考えて、リフトが作動中に崩れたフードパックを取り除こうとする行動に出ることが想定されるので、本件機械の製造者としては、そのような操作担当者の心理にも配慮して、機械の安全性を損なうことのないようにする必要があるというべきである。 そして、機械を停止せず、作業効率を犠牲にせずに、しかも安全に荷崩れ品を排除することは、十分に可能であったものと認められる(例えば、リフトが最下部でフードパックを梱包場所に移動させた後、そのまま停止するか、あるいはリフトが最上部まで上がらずに、もっと下で一旦停止して、次のサイクルに入ると同時に最上部まで上昇していくようなシステムになっていれば、安全に荷崩れしたフードパックを取り除くことができ、身体を挟まれることもなかったと考えられる。)。そうすると、まず、このような適切な排除策が講じられていなかった点で、本件機械は、通常有すべき安全性を備えていなかった、すなわち欠陥があったものと認めるのが相当である。また、仮にそうでないとしても、本件のような不適切な排除策を前提に本件機械を 設計しておきながら、リフト上に手や身体が入ったときに本件機械が自動的に停止するような対策が講じられていなかった点で、本件機械には欠陥があったものと認めることができる。 東京地判平成26年2月26日(国立大学法人研究棟ガラス落下事件) 強化ガラスは、ガラスである以上、何らかの原因で破損するおそれがあるが、その原 因の1つである残存する硫化ニッケルにより自然破損することについては平成12年頃 にはガラスメーカーのカタログ等により建築関係者には周知のことであった。しかし、強化ガラスは、建築物の採光及び景観等を保持するためには有用な建築資材であるため、その後も、破損により生じる危険性に対する防止策が講じられた上で国内外の多くの高層建物に使用されている。 このように、現在の技術では、製造の過程で強化ガラスに硫化ニッケルが発生し、残存する可能性を完全に除去することは困難であり、強化ガラスは、外力による破損の可能性のほか、製造過程において発生し、残存した硫化ニッケルの膨張によって自然破損する可能性のあることをも前提として一般的に利用されているのであるから、本件落下事故において落下した強化ガラスが残存した硫化ニッケルの膨張のために自然破損したものであるとしても、強化ガラスとして通常有すべき安全性を欠いていたとは認められないから、製造物責任は認められない。 |
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イ 技術的実現可能性 |
同上 |
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その他の当該製造物にかかる事情 |
ア 危険の明白性さ |
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イ 製品のばらつきの状況 |
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ウ 天災等の不可抗力の存否 |
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以上