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2022.03.25
前里 康平

所有者不明土地問題について

1.所有者不明土地問題とは
 所有者不明土地とは、不動産登記簿により所有者が直ちに判明しない土地、所有者が判明してもその所在が不明で連絡がつかない土地、をいいます。
 平成29年度の国土交通省調査によると、22%の土地が所有者不明土地であり、内66%が相続登記未了を、内34%が住所変更登記未了を、それぞれ原因としています。
 昨今、日本において超高齢化や都市部への人口移動・人口減少が進むにつれて、地方を中心として、土地の所有意識が低下したり、土地活用のニーズが減少したりしています。また、土地の相続登記申請については義務ではないため、申請しないことによる不利益を被ることは少ないといえます。このような事情を背景として、相続登記や遺産分割登記がされないまま相続が繰り返されることで、所有者不明土地は増加の一途を辿っています。
 所有者不明土地が増加することにより、所有者探索に多大な時間及び費用が生じる、所有者の所在等が不明な場合は土地管理が疎かとなり放置される事態が増加する、土地共有者多数の場合や一部所在不明の場合に土地の管理・利用のために必要な合意形成が困難となる、といった問題が生じています。

2.法律制定・改定による対策
 所有者不明土地問題に関する上記喫緊の問題に対応するため、政府は、所有者不明土地の発生予防及び土地利用の円滑化の両観点から法律の制定・改定を行いました。
 ⑴ 不動産登記法改正
 発生予防の観点からは、まず、不動産登記法改正により、相続登記等を推進するための不動産登記制度の見直しが為されました。具体的には、不動産を取得した相続人に対し、当該取得を知った日から3年以内に相続登記申請をすることを義務付けました。当該申請を担保するため、正当な理由のない申請漏れには過料の罰則が規定されています。また、登記で登記名義人の死亡の有無の確認を可能にするため、登記官が、住基ネット等の他の公的機関から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示(符号で表示)する規定も盛り込まれました。上記相続登記義務化関係の改正については令和6年4月1日から施行されます。
 また、不動産登記については、現在、住所変更登記は義務ではありませんが、住所変更未登記への対応については、所有権の登記名義人に対し、住所等の変更日から2年以内にその変更登記の申請をすることを義務付けたり、他の公的機関から取得した情報に基づき、登記官が職権的に変更登記をしたりする方策が導入されます。これにより、転居や本店移転に伴う住所等の変更が簡便な手続で登記に反映されます。
 ⑵ 相続土地国庫帰属制度の創設
 さらに、発生予防の観点から、相続又は遺贈(ただし、相続人に対する遺贈に限る。)により相続人が取得した土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度が創設されました。もっとも、国庫帰属させるには、通常の管理又は処分をするに当たり過分の費用又は労力を要するものとして、相続土地国庫帰属法に規定された土地に該当しないことが必要です。また、国庫帰属させるには、審査手数料のほか、土地の性質に応じた標準的な管理費用を考慮して算出した10年分の土地管理費用相当額の負担金が徴収されます。上記内容を含む相続土地国庫帰属法は、令和5年4月27日から施行されます。
 ⑶ 民法一部改正
 土地利用の円滑化の観点からは、土地利用に関する民法の規定が改正され、①財産管理制度、②共有制度、③相続制度、④相隣関係規定、がそれぞれ、見直されます。
 ①については、裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任する(裁判所の許可があれば売却も可能)ことを内容とする所有者不明土地・建物管理制度、及び、所有者が土地・建物を管理せず放置していることで他人の権利侵害のおそれがある場合の管理人選任を内容とする管理不全土地・建物の管理制度、がそれぞれ創設されました。
 ②については、裁判所の関与のもとで、不明共有者等に対して公告等をしたうえで、残りの共有者の同意で共有物の変更行為や管理行為を可能にする制度、及び、不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭供託により不明共有者の共有持分を取得して不動産の共有関係を解消する制度、が創設されました。
 ③については、相続開始から10年を経過したときは、個別案件ごとに異なる具体的相続分による分割の利益を消滅させ、画一的な法定相続分で簡明に遺産分割を行う制度が創設されました。
 ④については、ライフラインを自己の土地に引き込むための導管等の設備を他人の土地に設置する権利を明確化し、隣地所有者不明状態にも対応できる制度が創設されました。
 ①~④の制度創設により、所有者不明土地の利用円滑化を図ることが狙いです。
 これら①~④の制度を定めた民法等の一部を改正する法律は令和5年4月1日から施行されます。

3.おわりに
 所有者不明土地問題については、超高齢化の進展による死亡者数等の増加により、深刻化することが予想されます。そのような土地の管理の際に生じる問題については、今後、上記のような制度が利用できるようになることを参考にして頂けると幸いです。

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